「マルチタスクな人=仕事がデキる人」という認識は間違っています。複数の作業を同時進行することにより、個々の作業への集中力が下がり、生産性が低くなるのです。
この記事では、マルチタスクな人は「生産性が低い」とされる理由とシングルタスクに移行するコツを深堀りしていきます。日頃からマルチタスクで業務を進めているあなたは必読。
マルチタスクな人は「生産性が低い」とされる理由3つ
効率的なイメージのあるマルチタスクですが、なぜ生産性が下がると言われているのか?
以下の3つの理由から、マルチタスクのデメリットを紐解いていきましょう。
【マルチタスクが生産性を下げる理由】
①集中力が下がるから
②ストレスが溜まりやすくなるから
③設定した計画が崩れやすくなるから
理由①:集中力が下がるから
マルチタスクな人が生産性が低いとされる1つ目の理由は、「集中力が下がるから」です。私たちの認識するマルチタスクとは、複数の作業を同時進行で行うこと。ところが、脳は同時進行で複数のタスクを処理しているわけではないのです。
タスクを切り替えるたびに、脳も処理するタスクを切り替えています。処理する対象を切り替えるたびに脳疲労が蓄積し、集中力の低下を招くため、結果的に生産性も下がります。
このメカニズムは、スタンフォード大学の研究者であるクリフォード・ナス氏が、「マルチタスクを続けると能力向上に繋がるのではないか?」と疑問をもったことで研究が進み、判明した事実です。
理由②:ストレスが溜まりやすいから
マルチタスクがかえって生産性を下げてしまう2つ目の理由は、シングルタスクよりも「ストレスを感じやすくなるから」です。タスクの量は同じでも、マルチタスクで業務にあたると「時間汚染」によってストレスが増大してしまうのです。
時間汚染とは、社会学者のジョン・ロビンソンによって提唱された時間感覚によって生まれるストレスのこと。完遂すべきタスクの総量は同じでも、同時進行でこなすことで1つの業務に充てられる時間が少なく感じられ、シングルタスクな人より時間が不足しているように錯覚してしまうのです。
心的なストレスは、言うまでもなく集中力の低下や論理的な思考力を低下させて効率を悪化させます。よってシングルタスクができるにも関わらずマルチタスクを実践することは、ただ生産性を下げる要因を増やすだけの非効率的な行為になってしまうのです。
理由③:設定した計画が崩れやすくなるから
マルチタスクが生産性が低いと言われるもう1つの理由が、シングルタスクと比較すると「計画が崩れやすいから」です。
例えば、1時間で終わるタスクを2つ同時に抱えていたとしましょう。シングルタスクの場合は、作業の開始〜終了までの時間を見積もりやすく「1時間ずつ取り組めばいい」とシンプルに考えることができます。しかしマルチタスクで作業に取り掛かった場合、
- 1つのタスクがどれだけ進んだか?
- あと何分でタスクを完了できそうか?
- 優先して取り組むべきタスクはどちらか?
といった作業工程の目安を立てることが、シングルタスクよりも難しくなります。
以上のようにマルチタスクは、脳科学的にも心理的にもデメリットの大きい思考法です。マルチタスクで仕事をこなす人は、確かに才能があるように感じたり「仕事がデキる人」というイメージがあり、憧れる部分もあるでしょう。
しかし多くの人にとっては、マルチタスクよりもシングルタスクで1つずつ仕事を完遂させていくほうが、脳疲労や心的ストレスの面から生産性が高まることは明らかです。時間不足や仕事に追われる感覚を常に感じている方は、マルチタスクからシングルタスクに切り替えることで効率を改善できる可能性があります。
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マルチタスクな人が「シングルタスク」に移行するコツ4つ
ここからは、マルチタスクからシングルタスクへ移行する具体的な4つのコツをそれぞれ詳しく解説していきます。
【シングルタスクに移行するコツ】
①作業に使う物以外はすべてしまう
②タスクの優先順位を決める
③パーキングロット思考を取り入れる
④シングルタスクとマルチタスクを使い分ける
これらのコツを実践して日々の作業への取り組み方をシングルタスクに切り替え、業務効率化を図りましょう。
コツ①:作業に使う物以外はすべてしまう
シングルタスクに移行する最も手軽な方法は、「作業に使う物以外はすべてしまう」というものです。たったこれだけでも1つの作業にのみ集中できる環境が整います。
社内PCを使った事務作業をする際には、「タイムリーで必要なファイル」と「今すぐには使わないファイル」に分けて管理するのがおすすめです。
シングルタスクに移行する際のコツは、その時に必要な物だけに注目すること。多忙なときほど「マルチタスクな人にならない」と心がけて、まずはシングルタスクに最適な環境を作りましょう。
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コツ②:タスクの優先順位を決める
マルチタスクな人がシングルタスクに無理なく移行する2つ目のコツは、タスクの「優先順位」を決めること。作業を始める前にやることリストを作成したり、瞑想して頭を仕事モードに切り替えるなど、1つのタスクに集中できるように意識を整えましょう。
世のマルチタスクで成功している人も、実は複数の物事を同時に処理しているように見えて、優先順位をしっかりと把握しています。だからこそ混乱することなく複数の作業に並行して取り組むことができ、雑になることなくきちんと仕事をこなせるのです。
マルチタスクというより「シングルタスクを複数掛け持つ」という考え方で、まずは1つの作業に集中する癖をつけましょう。
コツ③:パーキングロット思考を取り入れる
マルチタスクからシングルタスクにスムーズに移行したい人は、「パーキングロット思考」を取り入れてみましょう。
パーキングロット思考とは、今すぐ対処すべきでない話題や雑務などをメモ帳やタスク管理アプリなどに書き留めて、いったん保留する考え方のこと。駐車場(パーキング)に優先順位の低い作業を置いておくことで、より優先度の高いタスクに集中することができます。
これまでマルチタスクだった人は、仕事に集中しようとしてもついよそ事を考えたり、他の業務が気になることもあるでしょう。そうした細かな思いつきや小さなアイデアを自分の脳の代わりに記憶してもらうことで、脳疲労を軽減することも期待できます。
コツ④:シングルタスクとマルチタスクを使い分ける
ここまで「マルチタスクはシングルタスクより劣っている」というニュアンスで解説を進めてきましたが、必ずしもすべての状況においてマルチタスクが非効率になるわけではありません。現に、マルチタスクで成果や実績を上げている人も数多くいます。
そうした成功者が作業をこなす時に心がけていることが、シングルタスクとマルチタスクの「使い分け」です。複数の仕事を効率的にこなす人は、具体的に以下のようにタスクの処理方法を切り替えています。
- 頭を使ったりアイデアを出すなど集中力の要る作業は、シングルタスクで一点集中する
- 片手間でできたりルーティン化できる単純な作業は、マルチタスクでまとめて片付ける
例えば、それぞれ数分あれば終えられるメールの確認や返信/電話の折り返し/部下への指示/チーム内の情報共有などは、まとめて取り掛かるための時間を作って一度に処理し切ること。こうして小さなタスクを一通り完了させてから、思考力を要するシングルタスクへと移行するのです。
人は、残されているタスクの複雑さに関係なく、記憶のために脳を使って疲労を蓄積させます。つまりすぐ終わるタスクから先に済ませることで、シングルタスクに必要なエネルギーを保つことができるのです。
また、たとえ小さなタスクでも最後まで完了させることで、自己効力感やモチベーションを上げることもできます。仕事に対する意欲の向上もまた、シングルタスクに移行した際の集中力を高めてくれるでしょう。
まとめ
素晴らしい能力者に見える「マルチタスクな人」も、実は生産性の低い人。この事実に気づいた今だからこそ、シングルタスクの重要性に気づかされますよね。作業環境を整え、シングルタスクで生産性の高い仕事をしましょう。
同日中に複数のタスクをこなす必要がある場合は、優先順位をつけて1つずつこなすのが得策です。